先生がいてくれるなら②【完】

「ボイスレコーダーはバイクが転倒した際に壊れてしまったって事にしても良かったけど、でも、彼女がバックアップを取ってないと言う保証は無いですから……」


私は光貴先生のその言葉に思わず大きく頷いた。


なぜなら、高峰さんにボイスレコーダーを返す前に、私もその内容のバックアップを自分のPCに取ってあったから……。


抜け目ない彼女のことだ、きっと彼女もそうしているに違いない。


それに……。


光貴先生も藤野教授も知らないだろうけれど、消してもらわなければいけない物はそれだけではない。


“あの動画” も、消してもらわなければ意味が無いのだ。



「──弁護士を付けて争うことも出来ます。……どうしますか?」



弁護士……、争う……。


私は思わず首を横に振った。



「私は争う気はありません。それは私のためにも、彼女のためにも、──孝哉先生のためにもなりませんから」



私がハッキリとそう言うと、光貴先生も藤野教授も目を丸くして、そして二人とも同じようにフッと微笑んだ。



「明莉さんらしい」



そう言葉にしたのは、藤野教授だった。


……教授から下の名前で呼ばれたのはこれが初めてだ。


いままでは “きみ” とか “立花さん” だったのに……。



「分かりました、では今のところは静観しましょう。でも、何か困ったことがあればすぐに僕たちに言って下さい。力になります」


光貴先生の言葉に、私の表情が正直に反応してしまう。



えっと、困ったこと──、


勉強……。


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