身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「そんなのお気になさらないでください。川嶺さまがお元気ならそれでいいのです」

彼女に悪気があって連絡が取れなかったわけじゃない。話せるような心境ではなかったのだと、私は受け取っていた。私の気持ちなんて考慮しなくていいのだ。

「まさかこんなことになるなんてっ……。こんなこと、もう今井さんにしか話せません。私がいなくなれば、菖悟さんはすぐに追いかけてきてくれると思ったんですっ……」

どうやら川嶺さまは私と菖悟さんの現状を知ってここにやってきたわけではないらしかった。あの日の顛末を、言葉につかえながらも私に伝えてくれる。

私は黙って耳を傾けながらも、何も知らないふりをしているのは不誠実じゃないだろうかと、心の中で自分に問いかけた。

けれど、とても言い出せるような雰囲気じゃない。正直、後ろめたさもあった。

「政略結婚でも、私は菖悟さんが好きだったんです……」

……きっとそうだと思っていた。けれど直接彼女の口から彼への想いを聞くと、胸が押し潰されそうになる。
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