身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「要するに、戸惑っていると」

「……はい」

高須賀さまから問いをしっかり噛み砕きながら、私は慎重に答えた。

けれど彼はすぐに満足げな表情になる。

「なら問題はないな。明日にでも俺のマンションに引っ越してこい」

「えっ?」

「戸惑っているだけなら、そのうち慣れるだろう。俺は至って普通の男だ」

私は目を丸くした。普通の男だなんてよく言う。二十五年生きてきて、私は高須賀さまのような人に出会ったのは初めてだった。

「そんなに簡単に結婚には踏み切れません!」

「ああ。だからまずは一緒に暮らすところからだ。入籍はそのうちすればいい。俺はきちんとあなたの気持ちを考える。仕事を辞めていいなどとはもう言わない」

二度と同じ過ちは犯さない、これからは何よりも相手の気持ちを考える、という先刻の誓いを、高須賀さまは早速実行しようとした。

けれど彼の振る舞いは、私を尊重してくれているのかいないのか判別がつきにくいもので、私の頭の中はこんがらがってしまう。

ただひとつ確かなのは、彼がとても強引だということだ。

「紗衣」

唐突に名前を呼ばれ、きゅんと心臓が跳ねた。
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