身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「あ……」

私はとっさに口を押さえ、瞬きを忘れて彼を見つめた。

彼と暮らし始めた初日に下された、甘い命令が甦る。

「今度俺を高須賀さまと呼んだら、ただじゃおかないと言ったよな?」

すぐに人の悪い笑みを浮かべた菖悟さんに、私はわななく。まさかこんなところで口を突いて出てくるなんて思ってもみなかった。あれから一度もミスしていなかったから油断していたのだ。

私は一体、彼に何をされるのだろう。彼に怯えた目を向ける。

「紗衣は今夜、俺の抱き枕だ」

いきなりぎゅっと抱き締められて、私は目を瞬かせた。

「え……?」

「朝まで抱いて寝てやる」

予想外すぎる命令に戸惑う私に、彼は唇を寄せてくる。

「ん……」

巧みに舌を誘い出され、絡められた。キスは深く濃厚に、そして官能的になる。けれどどこまでも甘やかで、私は酔いしれてしまう。

強引にすることだって、私を言いくるめることだって簡単にできたはずなのに、彼はそうしなかった。私はそれに彼の愛情を感じ、たまらない気持ちになる。大切にしてもらえているのだと、どうしようもなく心が満たされた。

……彼といると心地いい。ずっとこうしていたい。

安心した私はいつの間にか、彼の腕の中でそのまま眠ってしまっていた。
< 79 / 146 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop