その手をつかんで
キスをする理由を言われても、快諾出来るわけがない。

「私はこうして顔を見られるだけで、がんばれます」

「顔なんて、今までもほぼ毎日見てたよ」

「それは、蓮斗さんが社食に来てくれたから」

「ああ、そうか。いつも困った顔してたからイヤなのかと思ったけど、内心は喜んでいたんだね」


嬉しそうな笑顔を見せられて、私は「えっ?」と固まった。

内心は喜んでいた?

ううん、内心も困っていたはず。

本当に困ったから、自分の感情を抑えるようにして……あれ?

私、どんな感情を抑えていた?

蓮斗さんと接していると、自分でも気付かない感情に気付かされることが多い。

確かに困っていたけど、それは好きになりそうだったから……蓮斗さんのことばかりを考えてしまうから……。


「明日花、とうした? 何を考えている?」

「私……蓮斗さんを好きになりそうだから、困っていたみたいです」

「みたいですって、ほんとかわいいな」


蓮斗さんは、指で私の唇をなぞった。


「もう一度、キスしてもいい?」

「えっ、また?」

「何度しても、もっともっとしたくなる」
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