その手をつかんで
私は彼の横顔をちらりと見てから、彼の肩に頭を預けた。


「ん? 疲れた?」

「はい、少し」

「明日花が甘えるなんて、珍しいな」


蓮斗さんは、優しい声で私の肩を抱く。守られている感じがして、もっと甘えたくなる。


「蓮斗さんがそばにいると、落ち着きます」

「ほんとかわいいな」


ギュッと抱く力を強めた蓮斗さんは、私の額にキスを落とした。

まさかタクシー内でそんなことされるとは思っていなく、驚きで蓮斗さんの肩から頭を離す。


「あの、今なにを……」

「しっ! 静かに……運転に集中してるから気付かれないよ」


蓮斗さんは運転手に視線を向けてから、再び私を見据えた。彼の漆黒な瞳に見つめられると、心臓の動きが速くなる。

さっきまで落ち着いていたのに……。

私の胸の高鳴りに勘付いているのかいないのかは不明だが、彼は私の顎に手を触れた。とらわれたように動けないでいる私に、顔を近付ける。


「キスしたい」


やっぱり彼は性急な人だ。私の返事を聞かない……要求と同時に温かい唇が私の唇に重なった。
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