その手をつかんで
誰かがいるところではダメと言ったから、それを守らない蓮斗さんを拒否しなければいけない。

だけど、彼しか見えないし、感じられなくなった。

車の振動さえも感じられなくなり、自分が今どこにいるのかさえもわからなくなる。そんな中で私の口内に侵入した舌が、私の舌に触れる。

痺れる感覚がして、ハッと我に返った。


「ダメ……ここでは」

「残念……もっとしたいのに」


私に胸を押された蓮斗さんの唇は濡れていた。気恥ずかしくなり、顔ごと窓の外に向ける。

暗くてどこを走っているのか、わからない。


「そ、そろそろ着きますか?」

「ああ、そうだね」

「ちょっ! 蓮斗さん、近いです。離れてください」


蓮斗さんの体温を背中で感じた。彼は私を後ろから抱き締めている。


「なんでいけない? さっきは明日花から寄ってくれたのに、寂しいな」

「だって、キス……」

「興奮したかな?」

「……っ!」


蓮斗さんが私の首筋に顔を埋めたから、私は回されていた彼の腕をつかんだ。

もう……動揺させられてばかりいる……。このままではまた……。


「着きましたよ」


良いタイミングでタクシーがホテルに到着した。
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