その手をつかんで
負けないようにと言い返しても、勝てたことはなかった。今日も早々と負けを認めるしかない。これ以上、恥ずかしくさせられないためにも……。


「蓮斗さんと見て、感動を分かち合いたいのに」

「ごめん、意地悪しちゃったね。うん、一緒に見よう」


ベッドから降りた蓮斗さんは、パウダールームに行く。彼はどんな朝でもまず顔を洗い、歯磨きをする。幼い頃からの習慣がしっかりと身に付いているのだろう。

私なんて、ダラダラと朝ご飯を食べてから顔を洗うこともあった。しかし、結婚してからは蓮斗さんが起きる前に歯磨きもしている。

その理由は、彼とキスするため。

ベッドから蓮斗さんの後を追うのが私の日課。それは、いつもと違う場所に来ても変わらない。

タオルで顔を口元を拭いながら、蓮斗さんが振り向く。


「付いてきたの?」

「ダメでした?」

「ううん、大歓迎」


目尻を下げた蓮斗さんは、私に歩み寄って唇を重ねた。

顔を洗ったばかりの彼の唇はひんやりしていて、気持ちが良い。

毎朝のキスも私たちの日課。ここから一日が始まる。


「行こうか」
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