その手をつかんで
両手で握りこぶしを作って、杉田くんに意思を示した。

働いてみないとわからないことは、いろいろある。蓮斗さんもいつでも頼ってと言ってくれているど、専務である彼は忙しそうだし、普段私の業務との関わりはない。

忙しい彼に私のことで、手を煩わせたくない。杉田くんに頼らせてもらえば、蓮斗さんに迷惑をかけることもないだろう。


「家でも考えられるとは思うけど、家には持ち帰らず会社でやってね」

「あー、そうだよね。帰ったら考えようかなと思っちゃった」

「野崎さんは真面目だから、そんな気がした。だから、先に言ったんだ。仕事終わってからはプライベートの時間を大切にしてね」

「うん、ありがとう。やっぱり杉田くん、頼りになる」


杉田くんの気遣いが嬉しくて、素直に感謝の言葉を伝える。

杉田くんは照れくさそうに微笑んだあと、小さく咳払いをした。


「あのさ、プライベートの話になるけど、今夜時間ある?」

「今夜は、特に予定ないけど」

「一緒にご飯食べない? 久しぶりに会えたから、いろいろ話したいし」

「あー、えっと……ご飯は、ちょっと……」
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