その手をつかんで
専務室に着くまで、手はしっかりと握られていた。

蓮斗さんは私のバッグをソファに置いて、もう片方の手も握る。対面する彼の瞳は鋭くて、目を逸したくなる。

しかし、逸らせない。


「気をつけてと言ったよね?」

「はい……」

「だったら、なぜふたりだけで食事に行こうとしてたの?」


怒り口調で問われて、私は萎縮した。


「ごめんなさい……久しぶりだったから、今後のことも考えて、いろいろ話をしたいと思って」

「今後のこと?」

「はい、仕事でいろいろ助けてもらうから」

「仕事のことだったら、会社で話せばいいよね? あっちから誘ったようだけど、俺以外との食事は許されないな」


許されない?

なぜ蓮斗さんの許可がいるの?

つい自分の非を認めてしまったけど、蓮斗さんとはお試しの付き合いだからあれこれ言われる筋合いはない。


「私が誰と食事をしようと蓮斗さんには、関係ないと思います」

「関係ない?」

「そうじゃないですか? お試しのお付き合いなのだから、私がなにをしようと自由ですよね?」

「俺のことだけを考えてと言ったよね?」
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