その手をつかんで
私は何も言えなかった。瑠奈は私を庇ってくれたが、お父さんからそんなふうに見られていたことがショックだ。

やっぱりお試しとはいえ、蓮斗さんと付き合ったのがいけない。彼とは住む世界が違う。

だから、瑠奈も蓮斗さんも騙す計算高い女だと思われてしまった。

瑠奈のように違うと、反論できない。自分の立場をわきまえて、断らなかったのがいけないから。

だけど、瑠奈とはこれからも友だちでいたい。

私は「申し訳ありません」と頭を下げた。瑠奈がビックリした顔で私に近寄る。


「明日花、謝らないで。お父さん、明日花をいじめないで……」


瑠奈が私の背中に手を添えた時、来客を告げるインターホンが鳴った。涼輔さんが応対して、玄関へと向かった。

瑠奈は「もしかして」と玄関の方へ目を向ける。

玄関から話し声が聞こえた。その声は涼輔さんと、蓮斗さんのだった。姿を現した蓮斗さんは、切なさそうな顔でお父さんを見た。


「お父さん……」

「おー、蓮斗も来たのか。ちょうどいい、蓮斗も騙されていたことを知りなさい。この人は瑠奈とお前を騙していた」

「何を言ってるんだよ。明日花は誰も騙していない」

「バカだな、いつも教えているだろ? 人を見極めなさいと。ふたりして騙されるなんて、この人の演技力が相当なものなのだろう。今も真面目そうに見せているから、俺までが騙されそうだよ」
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