その手をつかんで
微かに口元を緩めた彼は、手を小さく振る。私は軽く会釈することしかできなかった。


そんな日が一週間ほど過ぎたある日、総務部で作業していた私に杉田くんが訊ねる。


「最近専務とは、どうなの?」

「どうって?」

「この会社に来た時は親しそうだったし、婚約者という噂も流れていたのに、ここんとこサッパリじゃない?」


杉田くんは、蓮斗さんが毎日社食を利用しているのを知らない。

  
「サッパリとは言い切れないんだけどね」

「そうなの? もしかして隠れて付き合っているとか?」

「ううん、それはないよ。そういう関係じゃないから」

「んー、それならどういう関係か聞きたいけど……言いたくなさそうだね」


思わず私が顔をしかめたから、杉田くんは追及をやめてくれた。蓮斗さんとのことは、出来る限り話したくない。

杉田くんはまた「んー」と唸り、私の顔色を窺う。


「野崎さんが良ければだけど、今度食事しない? 前にしようとした時、邪魔されちゃったから」

「うん、いいよ。いつにする?」 

「ほんとに?」   
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