ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……だって、しょうがないだろ。それしか思いつかなくて……俺も勝手に体が動いたんだよ」
お礼を言ったはずなのに、なぜか言い訳じみた返事が返ってきて、思わず笑ってしまう。
「だから、ありがと、ってば」
「お礼はなあ、んな気持ち悪い顔で言うもんじゃありません」
「あ、ひどっ。女の子に向かって、気持ち悪いって」
「嘘つけない性格なんだよ」
「失礼すぎ。……ちなみに気持ち悪いって、どんな」
「こう、ニタニタ、って」
「してないよ、ニタニタは」
「してたよ」
「してない」
「してた」
「……。じゃあ、あくまでしてたとして。それは康晴の顔が面白かったからだし」
「面白いって、どんな」
「こう、ゆでダコみたいな……」
「ゆでダコの顔、俺、よく知らない」
「いや、そうじゃなくて。色が——」