ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

このときわたしは、自分の涙が、なにに対するものなのかよくわからなかった。

ただぐるぐると、たくさんの声が、言葉が、頭の中を回っていた。


『俺、お前のこと好きなの』

『あいつ……まだ愛花のこと、好きなんだよ』


——どうして……。

どうして康晴は、わたしのことを、好きなんだろう。


『山名先輩のこと、見てあげてください』


——どうしてわたしの好きな人は、康晴じゃないんだろう。


『俺にできることがあるなら、……力になるからさ』


——どうしてわたしは、おーちゃんじゃなきゃ、だめなんだろう。


いくら考えても、答えは出てこない。

ただ……。


おーちゃんとの関係に関して、嘘をついたままでも、本当のことを話しても、康晴を傷つけることに変わりないのが、苦しくて。

わたしをここまで送ってくれた康晴を見ても、いつも通りなおーちゃんを見て、苦しくて。

おーちゃんの気持ちを試すために康晴を利用してしまった自分が、とても嫌なやつに思えて、苦しかった。
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