ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


「……それは……」


どう答えればいいのかわからず、目を泳がせた。

康晴が手を握りしめたからか、ビニールがガサ、と音を立てる。


「……前に、学校にお前を迎えに来てた人さ」


わたしのそばまで歩み寄った康晴は、窺うようにわたしと向き合った。


「お前の兄貴、なんだよな?」


すがるような笑みを向けられて、わたしは息をのんだ。


……本当のことを言わなきゃ。


そう思うのに、言葉が喉に引っかかって出てこない。

けれど、黙ったままのわたしを見れば、康晴には答えがわかってしまったはずだ。


「……やっぱりな」


目を合わせられなくて下を向いていたわたしの視界に、こちらへ踏み込んでくる康晴の足が映った。
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