ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
大切にしたい。
だからこそ俺は、心に蓋をして、愛花の気持ちに気づかないふりをして、もう一度彼女を妹のように思う必要があった。
そして——その決心は、今も変わらない。
「妹か。……そっかそっか」
なにやら噛みしめるように、萩原が繰り返した。
「なんで少し残念そうなんだよ」
「あ、いや……」
萩原は少しだけ言い淀んだ。
そして、すぐに深刻そうな顔をして、
「俺の身の安全、保証されなかったな、って……」
「……」
俺は右手で手刀を作ると、それを萩原の頭に、無言で振り下ろした。