ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

萩原に愛花のことを話したということは、少なくともあの夜の出来事を覚えているということだ。

俺は杉本さんと対角線上の端っこに立ち、なるべく息を殺した。

扉が閉まり、空間がふたりきりのものになる。


「……ほっぺ、痛かった?」


声をかけられて、心臓がぴくりと跳ねた。

まさか、さっそくその話題を振られるとは思っていなかった。


「いや、まあ……」

「あのときは、自分で思ってたより酔ってたの」

「みたいですね」


ははは、と笑いをこぼすと、杉本さんがこちらを振り返った。
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