ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

眉を寄せて、なにかを訴えるような目を向けられる。

けれどすぐに、諦めたように、はあっと短く息を吐いた。


「叩いちゃってごめんね」

「いえ。俺は全然大丈夫です」


杉本さんは背中を壁に預けて、こちらに向き合った。


「……さっきね、外回りのとき、偶然愛花ちゃんに会ったの」


のどの奥に指を突っ込まれたような衝撃で、俺は思わず咳き込んだ。


偶然会った、って……。

いや、それより、


「なんで、名前……」

< 205 / 405 >

この作品をシェア

pagetop