ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
眉を寄せて、なにかを訴えるような目を向けられる。
けれどすぐに、諦めたように、はあっと短く息を吐いた。
「叩いちゃってごめんね」
「いえ。俺は全然大丈夫です」
杉本さんは背中を壁に預けて、こちらに向き合った。
「……さっきね、外回りのとき、偶然愛花ちゃんに会ったの」
のどの奥に指を突っ込まれたような衝撃で、俺は思わず咳き込んだ。
偶然会った、って……。
いや、それより、
「なんで、名前……」