ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
エレベーターが、到着する。
扉がゆっくりと開いた。
「子どもだなんて、思ってないくせに」
降りようと足を動かす前に、ぼそりと聞こえてきた言葉に、俺は息を呑んだ。
その場から動けずに、視線だけを上げる。
杉本さんは俺に背を向けて、ボタンに手を伸ばしていた。
「……降りないの?」
「あ、すいません」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
……聞き間違い、かな。
心の中で首を傾げながら、エレベーターを降りる。