ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


「樫葉くん」


ビルから出て、外の風を浴びたと同時に、呼び止められた。

振り返ると、杉本さんは俺から視線を背けたまま、神妙な顔つきをしていた。


「わたし、意地悪なこと言って、愛花ちゃんのこと不安にさせちゃったから。……ちゃんと安心させてあげてね」


それだけ言うと、「それじゃ」と俺を追い越して、杉本さんはさっさとビルを出て行ってしまった。
< 209 / 405 >

この作品をシェア

pagetop