ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
家に着いてから、俺は何度も時計を確認していた。
……遅い。
20時を過ぎても、愛花が帰ってこない。
このくらいの時間には、いつも家で飯を食べているころなのに。
もし遅くなる場合は、欠かさず連絡をよこしてくれていた。
もしかしたら、友達と一緒にいて、たまたま連絡を忘れているだけかもしれない。
そう思いもしたけれど、心配は重く心にのしかかってくる。
先ほど留守電に切り替わってしまったが、俺はもう一度、携帯の通話ボタンを押した。
『わたし、愛花ちゃんに意地悪しちゃった』
帰り際、杉本さんに言われた言葉が頭を過る。