ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「だからあんなに嬉しそうだったわけ」
バカ正直なやつだな……と呟くと、萩原はいやあ、と頬をかいた。
……褒めてないけど。
「だけど結局、その子が妹だって知ったからさ……。樫葉が杉本さんの気持ちを受け入れる可能性がまだあるのかって思ったら……この前つい、まだ好きだってこと、伝えちゃったんだよね」
「それでオーケーもらえたんだ」
「そう。ダメ元だったから、びっくりしたよ。……だから、ほんとにいいのかって聞いたら、樫葉のこと、吹っ切りたいから、って言われた」
「……」
どんな反応をすればいいかわからず、俺は当惑の眉をひそめた。
「でも樫葉に彼女はいなかったわけで……その勘違いを杉本さんに教えたのは、俺だし。だから余計に、どういう心境の変化でオーケーしてくれたのか、気になって仕方ないんだよね」
俺は、あれ、とひとつ引っかかりを覚えた。
杉本さんは、俺と萩原が話しているのが偶然聞こえたと言っていた。
……あれは、嘘だったのか。
萩原から、俺が妹だと説明したことを聞いたのだ。
「どういうって……言葉通りなんじゃないの。そもそも、俺は杉本さんからなにかをはっきりと伝えられたわけじゃないから。俺からはなにも……」