ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……」
「俺があの人に一年片想いしてたように……あの人も、お前にずっと片想いしてた、ってわけ」
「……、そうだったんだ」
——思ってもみなかった。
てっきり、流れが流れだったから、酔ったことで勢いがついたような、そんな程度の気持ちだと思っていた。
発するべき言葉が浮かばず、俺は目を伏せた。
「だからさ、せっかく付き合えることになって、素直に喜びたい気持ちもあるけど……杉本さんがお前への気持ちを無理に諦める必要がないなら、俺は彼女を応援したい。……樫葉は、女性自体に興味がないわけじゃないんだろ? 今、特定の相手がいないら——」
「いるよ」
「……え」
真っ直ぐぶつけられる萩原の気持ちに、誤魔化し続けることを申し訳なく感じた俺は、諦めたように息を吐いた。
「……俺にも、いるから。だいぶ前から、好きなやつ」
萩原は大きく目を見張った。