ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「噂……? え、なに」
「フフフ」
「もしかして俺の話でもしてたの? ……あ」
きょとんとしていた康晴だったけれど、すぐに思い当たる節があったらしく、顔を赤くしてわたしを睨んだ。
……ていうか美月ってば、その怪しい笑い方、怖いよ……。
「さてはお前……話したな……」
「ごごご、ごめんなさいっ」
「こーら」
顔を背けたまま逃げ出そうとしたけれど、ガッシリと首根っこを掴まれてしまった。
その流れで肩を組まれて、ニッコリ笑顔を向けられる。
康晴さん、目が笑ってないです……。
「ったく、お前ってやつは……俺がせっかくなかったことにしろって言ったのに」
「だ、だって」
朝からずっとわたしの様子がおかしい、って美月には怪しまれちゃったんだ。
ホームルームが終わるなり、「吐いたほうが楽になるわよ」なんて刑事ドラマみたいなセリフを言われて、そのまま捕まってしまったことを思い出す。
……そのときの美月の圧といったら。
思わず涙ぐんでいると、康晴ははあ、と息を吐いて、わたしから腕をほどいた。