ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

「……そんなに嫌だったのかよ」


ボソリと小さな呟きが聞こえて——、


「嫌なわけないじゃん!」


反射的に返した言葉は、思ったより語気が強くなってしまった。

康晴が息をのんだ気配がした。

わたしは恥ずかしさから、ゴホン、と咳払いをする。

黙ったままの康晴の表情を確認する勇気はなくて、目を伏せたまま続けた。


「康晴の気持ちは……その、嬉しかったよ」


康晴がどう、ということではないのだ。


……ただ、わたしがおーちゃんを好きなだけ。
本当に、それだけなんだ。


「……そ」


康晴の返事は、気持ちを汲み取るには短すぎるものだった。


……な、なんか微妙な空気になっちゃった。


勢いで言ってしまったから、頭の中は真っ白だ。

どうしよう、と必死に頭を回転させていると、


「ちょっとおふたりさん」


美月が呆れたように言いながら、わたしたちの間に割って入ってきた。


「わたしの存在忘れてたでしょ」

「あ……いや」

「そ、そんなことないよ」


慌てて否定するけれど、ハイハイ、なんて流されてしまう。


「それより愛花」


置いてけぼりにされてたことなんてちっとも気にしていない様子の美月は、校門の方向を指差した。
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