ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
と、話がひと段落したところで、ムズムズしてきたわたしは店内を見渡す。
お手洗いの案内を見つけて、ちょっと行ってくるね、と席を立った。
……一気に飲みすぎちゃったかも。
恥ずかしさを誤魔化すために、アイスティーに頼りきってしまったせいだ。
お腹がたぷたぷする。
「あら」
タイミングよく扉の向こうから出てきた人とぶつかりそうになって、ギリギリで立ち止まった。
謝罪をしようと顔を上げたわたしは、——思わず目を見開いた。
「確か、樫葉くんの……」
栗色の髪をした目の前の女の人は、わたしを見て驚いたようにこぼす。
——おーちゃんに、ビンタをしたお姉さん……!
間違っても声に出さないように気をつけて、わたしは心の中でそう叫んだ。