ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


……でも、おーちゃんが体育祭を見に来れなくて、よかったかもしれない。


校門で待っているだけで学校の女の子たちに注目されていたことを思い返して、わたしはひっそり胸を撫で下ろした。

あの日以来、ちょこちょこわたしは『お兄ちゃん』について聞かれることがある。

どうやら、他の女の子から見ても、やっぱりおーちゃんはかっこいいらしい。


それに、わたしの学校には可愛い子が多いし……。

おーちゃんが誰かにうっかり一目惚れ、なんてことになったら、困るよ。

……体育着に魅力を感じちゃうなら、なおさらだ。


「なんだよ、怖い顔して」


ちょん、と眉間を突かれて、わたしの思考は途切れた。

無意識のうちに、シワが寄っていたみたいだ。


「……体育着の女子高生にデレデレしてるおーちゃんなんて見たくないなって、思っただけ」


イーッと歯を向けてやると、おーちゃんはいたずらっぽく口の端を持ち上げた。
< 90 / 405 >

この作品をシェア

pagetop