ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


「……おーちゃん、わたし……」

「ん?」

「わたし……」


言いかけて、はっとして口を結んだ。

たった今喉まで出かかった言葉を押し込んで、唇を噛む。


……危ない。

今は考えてもらってる最中なのに、また言っちゃうところだった。


「どうした?」

「え、えと。……おーちゃんの体育祭、わたしも見たかったなって」


咄嗟の思いつきで飛び出した言葉だったけれど、言ってから、その通りだと思った。


走ってるところとか、真剣なところとか、友達と一緒にはしゃいでるところとか……。

高校生のおーちゃんを思い浮かべるだけで、ドキドキしてきた。

同級生だった子が羨ましいよ。


わたしが想像にうっとりしていると、おーちゃんがおもむろに本棚へと身を乗り出した。


「いいよ、見ても」


なにやら大きくて分厚いものを取り出して、わたしに手渡す。


ま、まさかこれ……。


確信にも近い予感にウキウキしながら、しっかりしたカバーから中身を出した。
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