ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「〜〜っ」
わたしはお腹に回る腕から素早く抜け出し、バッ! と立ち上がった。
小走りで廊下に向かって、言い残す。
「お風呂はいってくる!」
「はいはい。いってらっしゃい」
廊下の扉を閉める寸前、楽しそうにこちらを見送るおーちゃんが見えた。
着替えを持って、脱衣所に逃げ込む。
わたしはそのまま、その場にヨロヨロとへたり込んだ。
……死ぬかと思った。
もう少しで、呼吸の仕方を忘れるところだったよ。
——あの一件から、おーちゃんはわたしに対して、ものすごく距離が近くなった。
よく触れてくるようになったし、くっついてくるようになった。
その都度、意識してしまうわたしは、すぐにいっぱいいっぱいになっちゃうんだ。
まるで拷問だよ。
……だけど、これがおーちゃんなりの優しさなんだってことは、わかってる。
わたしがまた駄々をこねないように、できるだけ『女の子扱い』をして、安心させようとしてくれているんだろう。