ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

触れるだけ。

くっつくだけ。

それ以上のことは絶対にされない。

……キスだって、わたしがワガママを言った、あの日だけだ。

おーちゃんの気持ちは、まだ……わたしにはわからない。


「……好き」


さっき言いかけて呑み込んだ言葉を、ため息交じりに吐き出した。

触れられるたびに、ドキドキするたびに、苦しくなる。

想いが溢れて、つい声に出して、伝えたくなる。


それでも……。


「考えるって、言われたもんね……」


おーちゃんが答えを出せるまで、もう言わない。

困らせたくない。


「わたしは、……待てる子、だもん」


ひとりきりの空間で、強く、まるで言い聞かせるように、呟いた。
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