転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 あと一歩で、階段を上りきる。
 そのとき風で舞った砂埃を吸い込んでしまい、軽く「ケホッ」と咳払いをした。

 その声に気づいて勢いよくこちらを振り返ったふたりが、ハルトを見るなりサーッとわかりやすく顔を青ざめさせた。


「らららラノワール殿……! おっおっお疲れさまです!」


 片手を口にあてながらケホ、ともう一度だけ咳をして、ハルトは挨拶をしてきた赤毛の男をまっすぐに見据えながら足を進める。


「ああ。ご苦労」
「あっあの、任務中に雑談など申し訳ありません!! ど、どうか先ほどの我々の失言は、見逃していただけないでしょうか……!?」
「たいへん失礼いたしました!!」


 茶髪、赤毛はそれぞれ頭が膝につくんじゃないかという角度で腰を折り、許しを乞う。

 美しい青銀の髪を靡かせながら彼らに近づくハルトが、不意に足を止めた。

 そうしてふたりをじっと見つめたのち、無表情で淡々と言い放つ。


「よくわかった。おまえたちは必要ない。行け」


 ピシ……と茶髪と赤毛が、揃って絶望的な顔で硬直する。

 ハルトと付き合いの浅い彼らが、少なすぎる言葉の間にある「よくわかった。(このことは誰にも言わないし自分も忘れる。あとの見張りは俺が引き受けるから、)おまえたちは(もうここにいる)必要ない。(身体を休めに)行け」という真意を読み取れるはずもなく。

 消え入りそうに「失礼します……」とこぼしながらかろうじて敬礼の形を取り、ふたりは去る。
 自分の横を通り過ぎた男たちの青白すぎる顔を不思議に思いつつ、ハルトはひとりきりになった見張り台で大きく息を吐いた。
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