転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「今だから言っちゃいますけど、白川先生がご結婚されたって聞いたときはショックだったんですよねぇ〜」


 清水が意味深に、そんなことを言ったときだった。
 セリフの裏に隠された意図も、ましてや自分が旧姓で呼ばれたことも、気にする間もなく“それ”が結乃の目に入り、思考が停止する。

 無意識に歩みを止めていた彼女が見つけたのは、道路を挟んだ向こう側の歩道に並んで立つ美男美女──夫である春人と、赤坂レイラの姿だった。


(どうして……あのふたりが一緒に……?)


 頭の中はクエスチョンマークでいっぱいで。ひどく混乱しながらも、目が逸らせない。
 春人とレイラは視線を向ける結乃に気づくことなく、近い距離で何やら話している。

 美しく微笑んだレイラが何気なく手を伸ばし、春人の腕に触れた。瞬間、結乃の胸の中で仄暗い感情がザワッと蠢く。


(嫌だ……触らないで……!)

「黒須先生? どうかしたんですか?」


 道路の向こう側を見つめ微動だにしていなかった結乃は、清水の声にハッとする。

 慌てて振り返った結乃は、不思議そうな表情で自分を見下ろしている同僚に取り繕った笑顔をみせた。


「何でも、ありません。……すみません私、体調が優れないのでやっぱりタクシーで帰ります」
「えっ、大丈夫ですか? 送っていきますよ」
「いえ……あ、ちょうどタクシーが来ましたので、失礼しますね」


 言うなり片手を挙げて、タイミング良くこちらに向かってきていたタクシーを停める。

 そのあと、自分はきちんと挨拶をすることができていたのだろうか。何か話していた清水の顔をちゃんと見られないままどうにか言葉を返し、逃げるように後部座席へと乗り込んだ。

 ……今夜は、青山さんと会うんじゃなかったの?
 ……あのふたりは、やっぱり知り合いだったの?

 走り出した車内で、結乃の頭の中では行き場のない問いがぐるぐると渦を巻いていた。
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