転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 とはいえ職場であるこの王宮内で、自分たちの関係は秘密だ。この無自覚色男と自分が、実は幼なじみなのだと周囲に知れたら──十中八九間違いなく、面倒なことが起こる予感しかしない。

 そんな事情から、ユノは仕事中にハルトと顔を合わせたとしても一定の距離を置いた他人行儀な話し方を心がけていた。
 が、マイペースで他人に無関心なハルトが、ユノのそんな心情を正しく察してくれているとは思えない。


「それで、なぜここに?」


 ユノの頭のてっぺんからつま先までに一度視線を走らせ、淡々とハルトが言う。

 こんな夜半に、王宮看護師専用の青いワンピースとエプロン姿のままひとけのない庭園を歩いていたユノは、ハルトの目には不審に映ったのかもしれない。
 とはいえハルトだって近衛騎士団の白い団服のままだが、忠誠を誓う主君のため日夜その身を捧げる彼らはいつだって忙しそうだ。

 再度問われて声をかけられたときのセリフを思い出したユノは、自分が手にしている籠を持ち上げてみせた。


「薬草園に行ってきて、これから医務室に戻るところなの。私、今日は夜番だから」
「そんなもの、日の出ているうちに行っておけ」
「夜に採取した方が効能が高くなる薬草もあるのよ。こないだあなたが高熱を隠していたとき、無理やり飲ませたあの薬とかね」


 しれっと相手の不本意な部分をつつく返答をすれば、案の定ハルトは眉間にシワを寄せてこちらを睨むように見下ろしてくる。

 高圧的な態度に反撃するためのセリフは、思いのほか効いたらしい。思わず「ふふっ」と笑みをこぼし、ユノはまっすぐにハルトを見上げる。
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