夜には約束のキスをして
 一般的に、里の異能力者は、体力と同様、霊的な力を酷使した場合にも疲労を感じるが、それを回復させる手段はただ一つ、しっかりと栄養を補給して眠ることだ。それ以外の方法は基本的にない。逆に、どんなに力を使おうとも、休養をとれば翌日には八割がた回復している。これは、高熱を発する特殊体質の術者においてもそうで、安静にしているかぎり、高熱が何日も続くなどありえない。だからこそ、深青の高熱の原因は特定ができなかったのだ。それなのに、このような回復のしかたというのは、ありうる話なのだろうか……。

「なるほど、分かりました」

 和真が状況理解に苦心しているところで、納得の声を発したのは美里である。

「深青が急に倒れたのは、第二次性徴で力の発現のしかたに変化が起きたからということでしょうか」
「美里さんは理解が速いですね。ぼくはそう考えます。ご存知のとおり、深青さんは息をするように無意識に力を使役でき、感覚器官の一つのようにそれを使いこなしている、きわめて稀な術者です。日常的に霊的な力を使用しているため、それによる負荷は、他の者とは桁違いのはずなのですが、深青さんの類まれなる回復力がこれまでそれをカバーしていたのでしょう。それが、術者として大きな変化を迎える第二次性徴をきっかけに、普通の休養だけでは力の補給が追いつかなくなったのだと思います」
「つまり、現在は体調が落ち着いていますが、定期的に口付けによる力の補給が必要になる可能性が高いということですね?」

 美里のその発言だけは理解できて、和真は目を剥いた。

「そのとおりです」
「な……ちょっと待ってください。それって、どうするんですか……?」
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