夜には約束のキスをして

 疾走しながら器用に責め立てられて、和真は怯む。走りながらであるのに道の端に追い詰められてしまっては、答えないわけにもいかない。

「そりゃ、俺としては…………嫌だ。でも、台風のときは、どっちみち誰かがキスしたんだろ。だったら、深青にとっては大したことないってことじゃ……」
「ちょっと待ってください」

 言い終わらぬうちに遮られて、和真は鼻白む。

「なんだよ」

 唐突に立ち止まった文也の少し先で、和真も足を止める。文也に向き直ると、普段軽薄に緩んでいる彼の口元から笑みが消えていた。

「お嬢様が、誰とキスしたって言ったんです?」
「いや、俺は知らない。けど、深青が二日もったってことは、俺以外の誰かとしたってことだろ?」

 どうしてか文也は大げさに頭を抱えてうめいた。

「なにがどうなると、そんな発想になるんですか…………。お嬢様が誰ともキスしないで持ち堪えたって考えはないんですか?」
「昔は一晩も欠かせなかったっていうのに、それを信じるほうが難しいだろ」
「いやいやいやいや、待ってください。香山家のお医者様だって、今なら数日くらいは平気になっているかもしれないって診断されてましたよね、二年くらい前に。和真先輩だって聞いたでしょう?」
「…………」

 二人の間にしばしの沈黙が流れた。

「え……?」
「聞いてない。なんだその話は」
「えぇっ!」
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