夜には約束のキスをして

 香山の屋敷へと坂道を二人で駆けながら、文也が深青の状況について説明をくれる。
 昨晩急に不調を訴えた深青は、そのまま床に倒れ伏し、異様に高い熱だけが続いているらしい。解熱剤は効かず、他の症状もない。五年前と全く同じだった。ならば、口付けで回復するのはほぼ間違いない。

「だったら、どうして…………俺なんか待たずに、文也か誰かがキスすればよかったんじゃないのか」

 足は止めないままにも、訊ねずにはいられなかった。和真としては、知らぬ間に深青の唇を奪われなかったことに安堵する気持ちが確かにある。だが、深青がそれだけつらい思いをしているなら、口付けの相手になんてこだわらず助けてやってほしいという思いもある。嵐の夜に口付けをした相手がいるのなら、そういった対応をすることに、和真以外に異を唱える者はいないだろう。
 だが、文也は信じられないとでも言わんばかりに頓狂な声を上げた。

「はあぁ――――? それ、本気で言ってるんですか? そんなことしたら、あとでお嬢様にどんな目に遭わされるか……。というか、和真先輩的に、それってナシですよね? まさか別にいいとか言ったりしませんよね?」
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