夜には約束のキスをして
「…………それを説明させるんですね……。だからつまり……お嬢様が和真先輩に恋心を抱いているとか、和真先輩も実はまんざらでもなく思ってるとかですよ……そういう、より深い情が、お嬢様の力の源になるってことなんだそうです」
だから、台風の夜も僕らはあまり心配していなかったし、実際二日くらい平気だったんですよ、と続けられた言葉は、だがしかし、和真の意識をすり抜けていった。
「な……」
と、漏らした音に続けたかったのは、なぜそれを、という疑問だった。しかしその言葉は、口を無意味に開閉するだけで、声にはならなかった。代わりに、身体中の血液が頭に集中したのではないかというほどに、顔が熱くなる。秘めていたつもりの想いをさも当然のごとく指摘され、和真の頭は真っ白になっていた。
「………………‥………気がついてたのか……?」
「気がつかれていないつもりだったんですか?」
ようやく発した台詞を、年下であるはずの文也にざっくり切り返される。恥ずかしさでのたうち回れそうな気がした。
「……まあ、和真先輩にこの話が行ってなかったってことなら、お嬢様は気がついてないんでしょうね? よかったですね?」
おそらく他の人はみんな気が付いてますけど、と実に文也らしいフォローは、果たして慰めるつもりがあるのかないのか。
傍目八目とはよく言ったものである。当人同士だけが気がつかずにあれこれ憂慮を巡らせて、大事なことには気がつけない。そのくせ周囲には筒抜けだなんて、当事者としては笑えない。
和真は強烈な羞恥を誤魔化すようにわざとらしい咳払いを一つする。
「とりあえず、分かった。深青は誰ともキスしてないんだな」
「だから、そう言ってるじゃないですか」
文也が苦笑するのを苦々しく感じつつも、その事実があれば、もうそれでいいと自分を無理やりに納得させた。