夜には約束のキスをして

***

 香山家に着くと、応対に出た使用人が和真の顔を見るなり、「さあ奥へ」と深青の部屋へ通してくれた。その慌ただしい対応に、どれだけ自分の到着が心待ちにされていたのかを知る。
 深青の部屋には、深青の母である美里と医者が詰めていた。和真を部屋まで通した使用人が障子を開いて「和真さんがお着きです」と告げると、深青の傍らに座していた二人は待ちかねたように振り向いた。しかし、和真の視線は二人を素通りしてその向こうの深青に注がれる。彼女は、苦しげな呼吸を繰り返しながら、ぼんやりした視線を和真に向けた。

「かずま……?」

 名を呼ばれた和真は、挨拶も忘れて、そのそばに駆け寄った。

「二人にしてくれますか」

 礼儀を欠いたもの言いにも関わらず、美里と医者は心得たように立ち上がって、なにも言わずに部屋を辞していった。

「和真、なんで……」
「黙って」
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