夜には約束のキスをして

***

 時を遡ること五年。
 その日和真は、成長途上の深青の身体がはあはあと苦しげに呼吸を繰り返す音をじっと聞いていた。彼女の小さな手を、あまり大きさの違わない自分の手で包み込む。触れた部分から伝わってくる熱が、深青の苦しさを主張する。
 六畳一間に敷かれた布団に深青は力なく横たわっている。そのわきにぽつんと一人なすすべもなく座り込んだ和真は、おのれの無力さを噛みしめていた。
 彼女が寝込んでからすでに一週間が経とうとしている。十歳という年齢は、病気が死に直結するような儚い時期を脱してはいるが、数日にも渡る熱に耐えうるような頑丈さを持つとは言い難い。そろそろ体力も尽きてこよう。彼女の細い腕に痛々しく差し込まれた点滴の針は、深青にとって命綱となりつつあった。
 この一週間、深青の家の者たちは、実に熱心に彼女の看病をした。もちろん一族かかりつけの医者も呼んだ。しかし、高熱の原因は分からぬまま、いたずらに彼女の苦しみだけが長引いていた。

「もしかすると、深青さんの特殊な体質が影響しているのかもしれません」

 ポツリと医者がこぼした言葉を和真は想起する。優秀な術者を多く輩出し、特殊体質持ちがめずらしくはない香山家の血筋においても、深青の体質の異常さは群を抜いている。いかな、特殊体質の扱いに慣れた香山家付きの医者といっても、彼女の体質には理解の及ばぬ部分があったのだろう。彼ですらどうにもできないとなれば、もはやどのような名医を連れてきても無駄であることは明白だった。
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