桜の下に立つ人
 悠祐とは、先日和解らしきものはしたけれど、食事をしながら談笑するような間柄では決してない。中途半端な知り合いと話題を探りつつの昼食など、美空にとっては苦行でしかなかった。
 悠祐を凝視したまま、向かいの席に座ることも別の席を探すこともできずにいると、他の生徒が近づいてきてまさにその席に座ろうとした。

「あ……」

 うっかり美空が漏らした声を聞きつけたのか、悠祐が顔を上げる。美空と、知らない生徒と、その間にある空の椅子を順番に見回して、悠祐は生徒に向かって申し訳なさそうに謝った。

「ごめん、その席空いてないから」

 空いてなかったのか……。
 立ち去る生徒に続いて美空も踵を返そうとすると、背後から怒ったように呼び止められた。

「なんであんたまで行こうとしてんの。そこ座るんだろ」
「え……でも、今……」
「あんたのためだよ。さっさと座れ」
「あ……ありがとう……」

 半ば強制されつつ、美空はおずおずと腰を下ろした。
 目の前が美空で本当によかったのだろうか。ちらりと見た悠祐は何事もなかったように食事を再開していて、美空の存在などどうでもよさそうだった。美空も変に緊張せず、普通にご飯を食べていればいいのかもしれない。
 美空は手にしていた包みから弁当を取り出すと、手を合わせて小さく「いただきます」と言った。

「なんであんた、弁当なのに食堂来てんの?」

 口と弁当の間で黙々と箸を往復させていたら、急に話しかけられて美空は咳込んだ。いつの間にか悠祐のどんぶりが空になっていた。

「……教室、だと……面倒だから……」
「弁当あるのに食堂来るほうが面倒だと思うけど」

 もちろん食堂で弁当を食べている生徒もいることにはいる。だが、ほとんどは食堂で昼食を購入する友人の付き添いだ。美空のように、一人なのに弁当持参で食堂に来る生徒などいない。
 美空はどう答えたらいいのか迷って、結局そのままを口にした。
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