桜の下に立つ人
 悠祐がそれに気づけたのは、程度の差こそあれ悠祐自身にも、野球部のエースとして否応なく注目され期待された経験があったからだ。きっとそれも、野球が悠祐に残したものなのだ。
 間近で美空の表情や仕草を観察していると、彼女の中には周りも本人すらも気づいていない豊かな感受性が眠っているのではないかと思う。おそらく今後たくさんの作品を通して、美空はそれを開花させていくだろう。先ほどの絵はその一端に過ぎない。
 ゆっくりだけれど確実に美空は変化していく。その隣で、悠祐もまた変わっていけたらと願う。
 変化はいいことばかりではないかもしれない。けれど、過去にしがみつくことはもう決してしない。
 窓の外の桜はもうほとんど散ってしまっている。しかし来年もまた美しい姿を見せるだろう。
 だから、未来を恐れる必要など、微塵もないのだ。
 この夏には、二年間ともに練習に明け暮れた仲間たちの引退試合がある。今年は美空と応援に行けるだろうか。
 ガラスの向こうで吹いた一陣の風が、地面に残る花びらを空中に舞い上げる。その様子を見つめながら、悠祐はふと、そんなことを考えたのだった。

fin.
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