名前は、まだない・・・・・・
二 呪われたエリア
私の住んでいる地域は、駅近、商店街近くの便利な住宅街だ。古くからの住民も多く、都心への通勤圏ではある物の、昔ながらの通りに住んでる人は、全員知り合いという、田舎じみた場所でもある。

 100mほど離れた、叔母の家、1kmちょっと離れた大叔父の家、そんな風に親戚も徒歩圏に住んでいる。

 我が家を訪れると、叔母は必ず口にする。
「なんなの、この家は! 掃除しなさい! こんなにダンボールばっかり!」
 それは、叔母が祝福された場所に住んでいるからだ。

 叔母の住んでいる場所は、先述の通り、家から100m程しか離れていない。但し、これは直線距離で、歩くと、少々距離が長くなる。そのせいで、正確には町名も異なる。
 この違いは、町名なんて生やさしいものではない違いを私達にもたらしたのだ。

 叔母の祝福された居住エリアは、私の住んでいるエリアと同じく、月に二回資源回収ゴミの回収が行われる。何しろ、各家庭に聖書ならぬゴミの分別方法の冊子を配っている自治体だ。毎日のゴミ出しのルールは、煩雑で、分かりにくく、時に途方にくれる暗い複雑だ。
 燃えるゴミ(何だって、最古は燃えるのだが、そんな事は許されない)、容器包装プラスチック、不燃ゴミ(なんだ、これは?!)、缶・ビン・ペットボトル。電池は指定の回収箱へ。家電製品は、粗大ゴミ回収の手続きを役所で行って、品によっては持ち込み可。回収費用は上乗せとなる。※1名刺サイズより大きい紙を燃えるゴミに入れることは禁止。※2容器包装プラスチックは洗浄して出すこと。※3カン・ビン・ペットボトルは、中を洗浄すること。ペットボトルの蓋とラベルは容器包装プラスチックに、蓋とラベルが付いてる物は回収しません。

 そう、回収しないのだ。ルールに違反すると、ゴミは無惨に置き去られる。そして、置き去りにされたゴミには如何にも、『こいつ、ルール違反してる国賊だ!』と、言わんばかりの黄色に黒字のシールが貼られる。そんな、国賊呼ばわりされたゴミを回収するのは、当然出した本人のはずだが、中には不法投棄されたゴミもあり、回収されることなく放置される物が出てくる。それは、持ち回りのゴミ当番が自宅の敷地内に保管する義務がある。

 そう、このゴミ当番。実は、地元の町内会に所属して会費を払っている人だけに回ってくる。つまり、住んではいるが、町内会に入っていないと、ゴミは捨てるが、ゴミ当番は回ってこないという仕組みだ。そして、私の住んでいる場所には、ゴミは捨てるが掃除はしない家庭がいくつかある。そのため、週ごとに担当が変わるゴミ当番、6週に一度回ってくるという、ハイパーローテーションなのだ!

 このゴミ捨てルール、実は非常に理不尽なルールになっている。
 『ゴミは、あさ6時から8時までの間に指定の回収場所に捨てること』と決められているが、回収時間はその日のゴミの量次第。朝9時にくることも、午後の3時に来ることもある。つまり、魔のゴミ当番が当たると、その週のスケジュールは全滅。ルールをまもると、仕事に行かれないと言うことになる。
 しかも、捨てて良い時間は朝の6時から8時。6時前に家を出て仕事にいく人、夜勤でこの時間に出せない人は、ゴミを捨てられないルールと言うことになる。

 これは、古き良き昭和の時代、家庭には主婦が居て、24時間営業の店や夜勤なんて、一握りしかいない時代のルールをそのままにしてあるのだ。

 私は以前、シフト勤務で5時の電車に乗って仕事に行っていたことがあるし、友人は同じく5時のバスで出勤していたし、そうすると、私達は、どちらもゴミを捨てられないと言うことになる。そして、このルールを守るためには、私は6週間に1週、仕事を休まなくてはならないのだ。
 町内会に入って、年会費を取られた上、こんなゴミ当番に縛られるなんて、何の罰ゲームだよ!
 しかも、町内会に入ると、赤十字、赤い羽根の共同募金等々、湯水のように人にお金を拠出させる仕組みが出来ている。しかも、寄付金なのに、最低金額が金額が決まっていて、これ以上なら幾らでも大丈夫って最低金額、市場のインフレ率より高く上がっていく。
 これがイヤだから、入らない。でも、ゴミは捨てます。そんな家が増えるのも、頷けてしまう。

 これだけでも、充分呪われている感が否めないが、でも、これは、この市に居住する皆が苛まれている呪いだ。たぶん、日本国中の殆どの地域で似たような呪いが存在すると思う。

 では、なぜ、私の住むエリアが呪われていると私が言うか、それは、月に2回しかない資源回収ゴミのことだ。
 先述のとおり、名刺より大きい紙、コピー用紙や新聞、迷惑なダイレクトメール、ダンボール箱は、すべて資源回収ゴミと呼ばれるくくりにはいる。

 これは、月に2回、指定の曜日に回収される。家は、第二、第四土曜日。平日ではなく、週末だ。金曜日の夜、疲れて帰宅し、朝6時から8時の間に、指定場所に出すことを求められる。そして、雨の日は回収されないし、よしんば、あさ6時に快晴で捨てたとしても、回収時間前に雨が降ってきたら、捨てた人は取りに行かなくてはならない。つまり、この土曜日は出かけてはならないと言うことだ。なぜなら、これも何時に回収されるか分からないからだ。

 そして、なぜか、第二、第四土曜日には雨が降る。これは、一年を通しての話だ。
 第一や第三土曜日は晴れているのに、なぜか、第二と第四土曜日には雨が降る。晴れているからと出していたら、ポツリなんてことも一度や二度ではない。

 そして、先日気づいた。既に3ヶ月、資源回収ゴミを出せずにいる。当然だが、家の中に置ききれないダンボールは車に保管しているが、それでも通院や買い物に使うため、車をダンボールでいっぱいにするわけにはいかない。

 そして、このコロナウィルスのために、外出自粛、通販の多用、そして今日も箱は増えていく。なのに、今日は時間40ミリの大雨注意報がでている。

 先日、立ち寄った叔母はあきれた顔をしていたが、私だって燃えるゴミにダンボール箱を出してしまいたい。県内のほかの市に住む知り合いは、何でもごちゃ混ぜに捨てても平気と豪語する。でも、ルールは守らなくてはならない。
 ダンボール箱を捨てられないなら、収納に活用してやると、箱に入れて収納をしたりもしているが、それにも限度がある。

 ああ、叔母の住むエリアが羨ましい。
 直線で100mしかはなれていないが、あちらは第一、第三月曜日。しかも、回収場所が屋根付き、雨天決行エリアなのだ!
 なので、ダンボールに泣かされることなど一度もない。だって、雨でも捨てられるのだから。それなのに、通販嫌いで箱物が家にないと来ている。

 家だって、第一、第三月曜日なら、晴れていることが多いのに。叔母には、ゴミをだしたくても出させて貰えない、私の気持ちは絶対にわからない。なぜなら、叔母は呪われた場所に住んだことがないからだ。

 先日、強者に初めて出くわした。
 それは、裏の通りの資源回収ゴミ回収場所。同じく、第二、第四土曜日の呪われた場所だ。
 早朝は晴れていたのに、昼近くになり雨が降り出した。しかし、その段ボールの束は雨に濡れて放置されていた。
 翌日も、その翌日も、次の土曜日も、その段ボールは放置されていた。そして、更に次の土曜日。再び雨が降った。それでも段ボールは放置されていた。
 そう、きっと出した人は、一月半ぶりに晴れたから、一生懸命にダンボールを出したのだ。なのに、無情にも雨が降った。
 びしょ濡れの段ボールなんて、屋内に保管できる人は少ない。それに、一度塗れてしまえば、資源回収ゴミではなく、燃えるゴミに近くなる。
 結局、3週間近く放置された段ボールは、心優しい燃えるゴミの回収員の人によって、燃えるゴミとして回収された。

 ルールを守らない方も悪いけれど、時代や環境に合わせて、ルールの見直しをせず、一方的に押し付ける方も悪いと思う。私には、3ヶ月資源回収ゴミの回収をして貰えず、新聞や段ボールの置き場に困る人の気持ちも良くわかる。

 今週末は資源回収ゴミと、期待して目覚めた朝。滝のように雨が降る音を聞くと、ここが呪われた場所だと、しみじみと感じる。

 再来週の土曜日こそは晴れて欲しいと、祈るばかりだ。


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