お見合い夫婦!?の新婚事情~極上社長はかりそめ妻を離したくない~

(え、嘘……)

信じがたい事態が果歩の思考回路を全面的にストップさせる。なにも考えられず、やわらかな感触を受け止めるだけ。
時間にしたら、たぶんものの数秒だろう。静かに離れた晴臣は、少し困ったような顔をして「おやすみ」と果歩の髪をふわりと撫でた。

スタンドライトが消され、部屋に暗闇が舞い降りる。果歩は、晴臣に布団を掛けてもらった後も硬直したまま、なにも見えない宙の一点を見つめていた。

(……今のは、なに?)

そう自分に問いかけてもキス以外の答えは見つけられず、どうしてそんなことになったのかの理由はどこにも見当たらない。

(おやすみのキスってだけ?)

彼が自分を好きなはずはない。この関係はひとときの偽り。そこに晴臣の心があるとはどうしても考えられず、なんとなくの流れでした単なる挨拶の一環としか思えない。

彼が困ったような顔をしたのは、きっと果歩の反応があからさまに初心だったから。晴臣にとってはあくまでも挨拶のキスなのに、果歩が重く受け止めたように見えたから。なんの意味もなく、たとえばただ手を繋いだだけの触れ合いと変わらないものなのだ。

そんな結論に至ったのに、その夜、果歩は一睡もできなかった。
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