Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
 立ち去ろうとしたとき、芹澤さんに「エリカさん」と呼び止められた。

「やる気になってくれて、本当に嬉しいよ。いくらでも協力するから、困ったことがあればいつでも相談して」

「はい。ありがとうございます……」
 わたしは振りかえって軽く頭をさげた。

 あれ? 「エリカさん」って呼ばれなかった? 今。

 頭を上げると、彼が目の前にいた。
 わ、な、何?

「それと、これから、名前で呼ばせてもらってもいい? ぼくのことも〝宗太〟でいいから」

 名前呼び? わたしも?
「ねえ、今、ちょっと、呼んでみてよ」
「今……ですか?」
「うん」
 力強く頷かれる。

「そ、そ、そう……」
 とたんに、ボッとマッチに火がついたように、顔が熱くなった。

「や、やはり……芹澤さんと呼ばせていただいたほうが」
「ダメダメ」

 芹澤さんは、わたしの目の前で、右手のひとさし指を左右に振った。

 こんなキザな仕草も、何故か、この人がするとカッコよく見えてしまう。

「さっき、恋人らしさが必要って言ったのは、エリカさん、……これも堅苦しいな。エリカのほうだけど」

 わー、さらに、呼び捨て⁉︎ 

 勢いで変なこと言っちゃったな、さっき。

「そ、それは、パーティー当日の話で……」
 顔を真っ赤にして言い訳するわたしを、彼は面白そうな顔で覗きこんでくる。

 若干、からかわれている気がしないでもないけど……

「じゃあ、それは次までの課題ってことで」
「わ、わかりました。では、おやすみなさい」

 そう言って、わたしはそそくさとリビングを後にした。
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