今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
 窓から差し込んでくる朝の光が、ダイニングテーブルに二つの半球の影をつくっている。

 安寿と航志朗は朝食を食べ始めた。豪快に真っ二つに割られた大きなマスクメロンの片割れを前に、思わず安寿はくすっと笑ってしまった。航志朗が彼いわく一分で用意すると言った朝食である。だが、実際には一分以上かかった。

 航志朗は昨夜カレーを食べたディナースプーンを持ち、メロンを大きくくり抜いてひと口で食べてから、その空いた穴にグラノーラを入れて牛乳を注ぎ、たっぷりとハチミツをかけた。それを見て安寿は目を丸くした。昨日は立派すぎるマスクメロンの値段に目が飛び出たが。

 安寿の方は、ティースプーンでメロンを小さくくり抜いて口に運んだ。安寿も航志朗のまねをして食べてみた。正直な感想を安寿は率直に述べた。

 「とても贅沢な朝食ですね」

 「君が気に入ったのなら、明日の朝食もこれにするか?」

 その航志朗の問いかけに安寿はあわてて首を振った。

 (「明日の朝食」? いつまで彼と一緒にいるんだろう……)と安寿はふと思った。

 「岸家へ向かう前に少し山の方へドライブしようか」と航志朗は安寿を誘った。安寿は快く承諾して、朝食の後片づけをしてから出かける準備を始めた。安寿は二階のベッドルームに隣接しているウォークインクローゼットに行った。そして、ハンガーポールから、おととい航志朗に買ってもらったネイビーのワンピースを大事そうに手に取った。その手仕事の繊細な美しさに安寿は胸がときめいた。だが、実際に着替えてから姿見の前で自分の姿を見ると、こんなに素敵なワンピースは自分にはもったいないと思ってしまった。
 
 至急のビジネスメールを返信し終えた航志朗も着替えるためにベッドルームにやって来た。航志朗は安寿がいるとは思わずにドアを開けると、あのワンピースに着替えた安寿がベッドの前に立っているのを目の当たりにした。その白く光輝くようなあまりの美しさに、即座に航志朗は参ってしまった。今すぐ安寿をベッドに押し倒してどうにかしてしまいたいという欲求と必死に戦って、かろうじて航志朗の理性の方が勝利した。もちろん、安寿はそんな航志朗の男としての内面の葛藤にはまったく気づいていない。航志朗は安寿にわからないように切なくため息をついた。

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