ハッピーエンダー



男の所有する高級マンションの一室が俺の家になった。ここへ来て、なにもかも変わった。

母親の言うとおり、男は俺の実の父親で、名前は一条。一条ホテルグループの社長で、一番最初の正妻との婚約期間にうちの母親を孕ませ、揉み消した男だった。

母親は昔から俺に金も出さず協力もしないくせに、いい大学へ行って社長になれと喚いていたが、その意図がようやくわかった。この男のようになれということだったらしい。

ある日、会社の社長室に呼び出され、俺の名前のブラックカードとその口座を渡された。なかには二千万入っていたから、俺は「足りない」と言った。

「なんだと? ハッ、母親に似て金が大好きだな」

「さあ。どっちの血だろうな」

「……なに?」

「今までの養育費を払ってくれ」

男は眉をひそめる。

「養育費? お前なんてたいした養育もされていないのにか?」

俺は偉そうに深い椅子に腰かけたままのやつに近づき、ネクタイを下へ引っ張り首を絞める。

「勘違いすんなよオッサン。あの女の養育だよ。ご機嫌取りから下の世話まで、今までやってきた俺に感謝してもらわないと。とてもアンタの息子になんてなれる気がしねぇな」

そのときの男の顔は見物だった。その日のうちにさらに五千万が振り込まれ、満足した俺は大人しくマンションへ戻った。
< 150 / 161 >

この作品をシェア

pagetop