ハッピーエンダー

マンションには立派な家具が揃っていたが、俺はそれを四分の一も使わずに暮らした。まるで大きな檻。父親は俺をここで飼い殺しにする気なのか。

ベッドに横になり、目を閉じる。

母親と暮らしていたとき、セックスしなくても金が入る生活ができて、胸を張れるような家に住めたら、なにが手に入るだろうと夢見たことが何度もある。そのときは、バイクや車、自分に似合う服に、豪華な食事、俺もそんなものを欲しがるだろうと思ったのに、すべて叶ったはずの今はなにも思いつかない。

『こんな状態の人間は施設に入れて、世話をしてもらえばいいだろう』

俺は初めて会ったときから、あの父親が世界で一番嫌いになった。父親を嫌う気持ちに比べたら、母親への嫌悪なんて大したことはない。それどころか、俺は今より、母親との生活の方が何倍もよかった。

いや、それも違うな。母親との不安定な生活の裏で、光莉に会えるのが幸せだったんだ。
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