ハッピーエンダー

通夜開始、二時間前。

小さな会場はひんやりと肌寒く、親族席には私たち兄弟だけがポツンと座っている。ほかに親族は誰もいない。兄は父の連絡先を知っているらしいが、伝えたのかどうかすら、私には教えてくれない。

顔を上げると、母の職場、兄の職場、そして私のアルバイト先の店長から個人的に届いていたお花が飾られている。正面の棺の上には、白い花に囲まれた遺影の母が笑っていた。

「お母様のお話をうかがってもよろしいですか?」

司会の方が、親族席で呆然としていた私に話しかけてきた。兄がやっと席についたタイミングだった。私は突然のことに、なにも話せず兄を見る。

「そうですね、俺たちのためにいつも無理ばかりする人でーー」

そう話し始めた兄は声を詰まらせながらも毅然としていた。彼はこの数日と数時間のうちに、忙しさから平静を取り戻している感じがする。私は母の死を知ったときの衝撃がそのまま残り、喪服を着てここに座る今でも頭が真っ白だった。
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