ハッピーエンダー

私はまるで子どもだ。母の職場の人に「雪永さんのお嬢さんは偉いね。お母さんをちゃんと支えて、大人びている」と言われたことがあり、うれしかった記憶がある。しかし実際は誰よりも母に依存していて、いなくなるとこうして震え、兄の裾を握るしかできないのだ。兄は私の頭をなでるついでに、その手を払う。


母の遺影を見ているだけで、時間が過ぎていった。開始十分前になるとちらほらと喪服の人が会場に来はじめ、兄と私は入り口に立つ。私の黒いヒールはカタカタと音を立てている。社交的な顔で人々を出迎える兄の横で、寂しさに押し潰されそうになっていた。

『ただ今より、故・雪永花枝(はなえ)様のお通夜を執り行います』

いつの間にか席につき、通夜が始まる。無音の中で開始のアナウンスがされ、言い終えると流れ始めた音楽がじんわりと涙腺に響いた。
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