ハッピーエンダー

『花枝様は、宝物のようなふたりのお子様を大切に思い、成長をなによりも楽しみにしていらっしゃる、そんなお方でしたーー』

ゆったりとした口調のアナウンスが、私たち三人の思い出を語りだした。

手の甲にポタポタと涙が落ちてくる。ハンカチで押さえる余裕もないくらい、胸が張り裂けそうだった。兄は今後のスピーチの内容を手もとのメモで確認していて、顔を向けてもこちらを見てはくれない。

どんなに涙を流しても、暗く重い気持ちは流れてはいかなかった。瞳ばかりがグシャグシャに濡れ、胸の痛みは激しくなるばかり。

『お焼香を』

立ち上がる兄に続き、ヨロヨロと、リハーサルで指示をされた通りのお焼香をする。兄の真似をしていたため、ワンテンポ遅れて体が動いた。

兄とともに横に立ち、ぞろぞろと参列者がお焼香しに列を作るのをそばで見ていた。いや、私は見てはいなかった。母の職場の人、近所の人、見覚えのある人たちなのに、ひとりひとりに目を向けてお辞儀をする兄とは違い、目線を落としてただ意気消沈していた。
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